森と少女と道化師
『それでいいの?』
と聞こえた。まわりを見渡しても土、石、きのこ、木しか見えない。『森』しか見えない。
『誰?』
少し怖かったが聞いてみた。
『また逃げるの?』
今度ははっきりと聞こえた。まるで脳に直接話しかけているように。ムカついた、逃げる?何がお前に分かる。
『誰かわからないけど逃げてるつもりは無い、生きることが辛いんだ』
少し怒りながら、どこか悲しくなりながら大声で叫んだ。声を出すことも精一杯だったのにこんな大声を死ぬまでに出すとは自分でも思っていなかった。しばらく返事はかえってこなかった。僕は考えた。もちろんさっきの声の正体についてもだがその声に言われた逃げるについてすごく考えた。逃げてるつもりはない。ただ誰にも僕は愛されず生きてきた。なのに一人では生きられない。それが悔しかったんだ。だから一人で死んでやろうと思った。
考えれば考えるほど自分の弱さに気付かされる。自分が逃げていたことを気付かされる。
『どうすれば正解なの』
思わず口に出た。雨のせいでそんな小さな声は誰にも聞こえない、はずなのに
『生きてればわかるよ』
また聞こえた。優しい女の人の声だ。
雨が口に入ってきた。少ししょっぱかった。
段々雨は強くなっていった。そのあとの記憶はないが目が覚めると見知らぬ屋根の下に僕はいた。
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