先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~
航said
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午後9時過ぎ
タクシーを降りマンションのエントランスに入る。
花笑はいるだろうか?いや、いるはずだ。
さっきタクシーからちらりと見えた俺の部屋。6階の角部屋に灯りがついていた。
何を年甲斐もなくドキドキしてんだか…。
これから起こるであろう出来事に不安と期待が入り交じる。
花笑は俺を待ってるはず…。

鍵を開け、部屋に入ると甘い匂いが漂っている。
匂いに誘われるように灯りのついてるリビングに入るが花笑の姿が無い。
シーンと静まり帰った部屋。
電気も付けたままでどこに行ったんだ?
キョロキョロしながらこちらに背を向けているソファーに近寄った。

「花笑…」

花笑はソファーで寝ていた。安堵と共に愛しさがこみ上げる。
傍に寄り片膝をついて顔を覗き込むと、眼鏡をしたままぐっすり寝ているようで小さな寝息が聞こえる。
ふと見ると頬に白い粉のようなものが付いてる。
この甘い匂いと頬の粉、ケーキでも作っていたか…俺のために準備をしてくれてたんだと思うと有難く思う。
このまま寝かせてやりたいところだが、誕生日が終わるまであと2時間ちょっと。
今日中にしておきたいことがある。

ずれてる眼鏡を取りじっくり寝顔を見てから、頬に手を当て粉を取り肩を揺らした。

「花笑、花笑…」

起きてくれ。お前の笑顔が見たい…。



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