先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~

エレベーター前のホール。椅子もあり寛ぎスペースになっているが今は誰もいない。
やっと止まってくれた航さんは、はぁ~っと大きなため息をついて私を見下ろす。

「まったく、油断も隙もありはしない」

「え?」

「何であんな奴に触られてんだ、何で一緒にいた?酒なんか飲まされてなにやってるんだ?夏野はどうした?」

怒鳴るわけでもなく淡々と矢継ぎ早に問われ、恐る恐る説明した。

「同期の子達と話してたら知佳ちゃんとはぐれちゃって……いつの間にか囲まれて逃げられなくて。それに…」

「それに?」

片眉を上げ腕を組んで見下ろす航さん。

「航さんの担当の会社の人だから、後で航さんに迷惑かけたらいけないと思って断れなくて…」

最後の方はしゅんとして声も小さくなってた。
航さんの反応を下を向いて待っていたら、しばらくしてからまたはぁ~とため息をついている。

「バカだな、あいつは確かに取引先の営業だが、お前が断ったぐらいでどうこうなりゃしない。そんなんで気を使うな」

「でも…」

「でもじゃない。それで飲めない酒飲まされて触られて、挙げ句に持ち帰られたりしたらたまったもんじゃない。少しは俺の身にもなれ。」

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