【完】さつきあめ

「まぁ、たまに…。あたしは妹だし末っ子だから可愛がられてた方だと思ってた。
あたしたちは産まれを自分たちでは選べないのに、与えられた者と与えられない者に分けられるなんて、子供ながらに残酷よね」

「でも…光もお兄さんももう大人だもん。
小さい時はそうだったかもしれないけど、今は自分の道は自分で決めて自由に選べるよね!
って、ちょっと偉そうか。平凡な家庭に育ってきたあたしにはわかんない事も沢山あるよね」

綾乃がわたしの顔を見ながら、ふっと小さく笑みを浮かべる。

「その言葉、2人に聞かせたいわ」

わたしの知らない光を知っているということ。
光と決して切れない絆がある事。
血の繋がりという確かなものがある綾乃が羨ましかった。
そしてこの感情に気づいた時、いつかの彼女の想いが蘇ってきた。
レイ…。
レイはあの日病室で、光と絶対に切れない絆が欲しいと言っていた。
あれは、綾乃と光の関係を知っていたからこそ言えた事で、全て知った今、わたしも同じ感情になった。
今、無性にレイと話をしたくなってしまった。
元気だろうか。同じ街で、同じ系列で働いていても、彼女と偶然会う事はなかった。
いつか出会った時、わたしたちは同じ感情を分け合える事が出来るような気がしていた。

「ふざけんなよ!」

その声が聞こえて、綾乃と同時に振り返る。
嫌な予感がした。

皆の輪の中で、原田を囲んで凛とゆいがいて、凜の手には缶ビールが握られていて、ゆいは頭からびしょびしょになっていた。

あ、と思った瞬間、凜がゆいへ覆いかぶさるような形になった。

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