【完】さつきあめ

高橋に聞いてびっくり。
無理をすれば20代前半と聞いても納得してしまいそうなくらい綺麗なのに、夜の人間の年齢不詳気味は毎度驚かされてしまう。

「年齢的にはキャバはきついって自分でも思ってるのかもな。
でも俺は凛さんみたいに客も持ってて、なおかつ努力家な人だから店にいるぶんには全然困らないけど、年齢的にも本人はこれから働くならクラブの方がいいって思ってるんだろうなぁ」

「それでもうちの系列にいる意味って」

雑誌から顔をあげて、高橋を見る。
わかっているだろう、と高橋が目配せをする。
うん、わかってる。一緒にいたいんだね。原田と…。

わたしから雑誌を取り上げて、煙草を吸いながらそれに目を落とす。

「本当は凜さん結婚したいんじゃないかな」

「え?!」

「原田部長と、さ」

原田はまだ23歳、結婚なんて頭の片隅にも考えてはいないだろう。
見た感じ、正直凛を本命と思ってるとも思えない。
そう考えたら、なんて切ないんだろう。

なんだかんだ言って、若さが武器になる世界で、ゆいに奪われるナンバーも男も見ている気持ちはどれほど切ないのだろう。
けれど老いは誰にでも平等にやってくるもの。
おばさん、と笑っていたゆいにもいつかやってくるものなのだ。勿論わたし自身にも。今の自分の年齢にたかをくくっていては決していけないのだ。

「えー山岡さんって野村先生のお知り合いなんですかぁ?!
わたし野村先生の作品は全部読んでるくらい大ファンなんですよぉ!」

「えぇ!凛ちゃん若いのにああいう系の小説好きなんだぁ、意外だなぁ~」

「今日会社の上司にめっちゃ怒られてさぁ…」

「うんうん」

「本当に仕事嫌になるわぁー。ゆいちゃんと話してると癒されるわ」

「うんうん、そうだよね」

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