純真~こじらせ初恋の攻略法~
どんなにハイスピードでキーをガチャガチャと鳴らしても、それで心が晴れるわけなんてない。

そんなことはわかっているのに、いつまでもよどんでいる心に腹が立ってきた。

よくよく考えれば、私が藤瀬くんのプライベートのことで腹を立てる必要性なんて1ミリもなく、藤瀬くんの干渉する資格などないことはわかっている。

それでも好きな人には自分をちゃんと見てほしい。

他の女性の影なんてチラつかせてほしくない。

そう望んでしまうものなんじゃないだろうか。

人間に徳望と欲求がある以上、それは自然な事で当たり前のことだと自分を正当化してしまう。

だからついつい八つ当たりみたいなことをしてしまうのも、人間の性と言えるのではないだろうか。

「災難でしたね。デートの日と納期が重なるなんて」

可愛くないとわかっているのに止められない口は、性なのだろうか。

それとも私の性分なのだろうか。

「今回の仕事はいろいろと私が足を引っ張ってしまったから遅くなってしまったんですものね。申し訳ありませんでした」

湯川さんのアシスタントとの引継ぎやらなんやらで、結果として丸二日ほど藤瀬くんのアシスタントの仕事に後れをきたした。

藤瀬くんは問題ないと言ってくれていたし、実際に藤瀬くんの作業は余裕で納期に間に合うはずだったのだ。

昨日、クライアントから突然の修正が入らなければ。

そのおかげで残業しなければならなくなり、あんな電話を聞く羽目になったというわけだ。

「デートじゃないし約束もしてない」

そうハッキリと否定されても、一度入ってしまった『可愛くないスイッチ』はうまくコントロールできはしないのだ。
< 130 / 199 >

この作品をシェア

pagetop