絶対領域




あの会話に割って入って、「宿題出た?教えて?」とフレンドリーに聞けるわけがない。


ため息混じりに、窓のほうに視線を移す。



私、いつになったらクラスメイトと仲良くできるんだろう。



「いじめとかじゃないから、余計難しいんだよね……」



窓際の、後ろから2番目の席。

たぶんこの位置も、仲良くできない原因のひとつ。




夏休みが終わっても、セミは元気よく鳴く。


太陽も燦々と輝いている。



窓越しに差し込んできた光が、私のミルクティー色に染まる天パの髪を照らした。



髪……伸びたなぁ。

肩にもつかないくらい短かったのに、今じゃ胸元まである。




それくらい時間が過ぎたんだ。


――“あの時”から。






「萌奈」



後方の扉から、私を呼ぶ声がした。

お迎えだ。


急いで帰りの支度をして、彼のほうに駆け寄った。



「あず兄!」




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