絶対領域




俺だけ蚊帳の外のまま、あずきは自分のと萌奈ちゃんのカバンを肩にかけて、しゃがんだ。


萌奈ちゃんに背を向けて。




「……あず兄?何してるの?」


「俺がおぶっていってやる。早く乗れ」


「いいよ、歩けるよ!!」


「完全に熱が下がったわけじゃねぇだろ。こういう時くらい甘えろ」


「こういう時じゃなくても、無駄に甘やかすくせに」




最後にボソッと吐いた呟きをスルーして、あずきは「ほら、早く」と急かす。



そういえば、萌奈ちゃんが体調を崩したって知って、あずきと世奈が半狂乱状態になりながら役割分担してたっけ。


送迎担当、あずき。

家で看病担当、世奈。



……萌奈ちゃん、でろでろ甘やかしタイムは家に帰っても続くよ。覚悟しておいて。



「はぁ……もう、しょうがないなぁ」



嫌々ながら観念した萌奈ちゃんは、ベッドから降りるとあずきの背中にもたれかかった。



白鳥の衣装を着たままだから、学校でも街中でも注目されるだろうな。

グッドラック、萌奈ちゃん!



楽々と背負って立ち上がったあずきが、視線で俺を捉えた。



「じゃあ俺ら帰るから、先公に伝えておいてくれ」



あ、俺のこと気づいてたんだ。


無視はわざとだったわけね。

コノヤロー。


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