絶対領域



みーくんと結婚してから長い月日が経ち、お互いに年を取ったけれど。


今でも、私の中に“恋”はあって。

幸せだらけの“愛”もあって。


こうやって一緒に朝を迎える度に、みーくんと出会えてよかったと思える。




「ほらみーくん、準備しないと。今日仕事でしょ」



また寝ようとしてたみーくんの体をゆすってから、私は床に足をつけた。


私も支度しないと。




私は子どもが産まれてからは専業主婦として、家族を支えている。


おかげで料理の腕は若い頃より格段に上がった。


力の強さじゃなく、心の強さが磨かれていった気がする。




洗面台で一通りのルーティーンをし終え、エプロンを身につけてキッチンへ移動した。


今日の朝ごはんは、フレンチトーストにしようかな。



鼻歌混じりに甘い匂いを漂わせていると。



「……母さん、はよ」


「あ、おはよう、あーくん」



ダイニングルームに、息子がやって来た。



あーくんこと、円堂 蒼【アオイ】。


私とみーくんの大切な子ども。

現在、高校3年生。


学生時代のみーくんの面影があり、つい懐かしんでしまう。



鮮やかな黒い髪、左側には赤メッシュ。


ちょっと前までつぶらな瞳をしていたのに、いつの間にかその黒い目は凛々しくなっている。



これで学ランだったらまるっきりみーくんなのだが、残念。ブレザーです。


でも、ブレザーを世界1着こなしてる。

……なんて、親バカかな。




「あーくん」


「ん?」


「その顔の傷、どうしたの?」


「……別に。ちょっと喧嘩しただけ」



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