マイ・フェア・ダーリン

「お疲れー」

「あ、はい。お疲れ様でーす」

乗務員のダビゾウさん(ダビデ像に似てる。本名不明)に挨拶しながら、プルトップを開けた。

「けほっ。うわ、あっまーい……」

冷めないうちに、と歩きながら飲んだミルクティーはむせるほどに甘かった。
甘いものが嫌いなわけじゃないけど、市販のミルクティーは甘すぎて苦手。
そんなことを廣瀬さんは当然知らないし、通りすがりの人にわざわざ言うことでもない。
でも、コーヒーではなくてミルクティーを選んでくれたことが、ちょっとした女の子扱いのような気がして、ほんの少し……いやなかなか……実を言うと、結構うれしかった。

廣瀬さんか……

顔を思い浮かべようとしたけれど、最後に挨拶したダビゾウさんの顔が邪魔をして、廣瀬さんのイメージは霧散してしまう。
ダビゾウさんは純正日本人らしいのだけど、びっくりするくらい顔が濃い!
こけし集めを趣味とする祖母がいて、ギリシア彫刻とは縁のない環境で育った私は、何度見てもびっくりする。

そのせいもあるとは言え、二回も見た顔を思い出せないとは……。
これは私ではなく廣瀬さんが悪いと思う。

唯一覚えているきりっと深い夜空みたいな色のネクタイを思い浮かべ、私は大きくひと口ミルクティーを飲んだ。




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