No border ~雨も月も…君との距離も~
あの日、心にborderを引いた。

忘れることのできない
強く突き上げる……けれど 優しく……甘い。
溶けるような ファルセット。

ピュア過ぎる あのバラードは……私だけのために
歌ってくれているような、そんな感覚に落ちていく。

彼が歌う歌を 永遠にしたくて……。

あの日、心にborderを引いた。

私は、男性に カラアゲ弁当を差し出す。

「お待たせしました。カラアゲ(大)で。」

「また金沢へ来たら……ここへ寄ってもいいですか?」

「もちろんです。ぜひ お待ちしております。」

私が、フッと笑うと
男性は代金と一緒に 名刺を一枚置いて、立ち去った。

「ママさぁ~!さり気なく ナンパです。コレ。」
バイトちゃんが苦笑する。

「……(笑)……かもね。」

「彼氏、作んないんですか?(笑)」

「そのうちにねぇ~。 なんて、人の心配しなくていいのっ!(笑) 休憩 入っていいよ。」

「はーーーーーい!」

表にcloseの看板を提げると 私は、外の湿った空気を吸い込んだ。

ダークトーンの空からの陽射しが、濡れたアスファルトに淡い 日だまりを つくっている。

やっぱり……通り雨。

私も そのborderを 見てみたい。
雨の降る 境目を 見てみたい。

たった今、目の前で 出来上がっていく 七色の
光の現象に、私は 息を飲んだ。

夢は大きければ 大きいほど……失うものがある。

せめて……

大きな夢と 引き換えに……無くした小さな恋だったと…… 彼が 思ってくれたなら

私が 決めた 答えは、間違っていなかったと
そう 思える。

心から……そう 思えるんだ。


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