No border ~雨も月も…君との距離も~
「 2度目のクリスマス。 2度目の冬かぁ…。
なんか、いいね!」

私は、鈴ちゃんに 微笑んでみせる。

「 うん。紗奈は これからだね!なんか~♪
私まで、ドキドキしてきちゃった。」

鈴ちゃんが 目をキラキラさせて、胸の前でガッツポーズを作る。

「 ……(笑) 自信……ないんだ。本当は。」

私は 少し離れた所で、メンバーと打ち合わせをするシンの 横顔を見つめた。

その顔が……

ふっと視線を上げて 、急に 男の表情に変わったような 気がした。

気のせい……?

シンは、こっちの方をグッと見ているけれど 視線の先は……私じゃなくて……。

粉雪が吹き込む扉の前の、彼女に向けられていた。

少し息を切る 彼女。

カオリちゃんの 桃色の頬で白い雪が 溶けた。

「 あっ。」

「……あっ。」

「……。」

私と 鈴ちゃんとシンは、たぶん3人とも同じ……静かなリアクションで、カオリちゃんの姿に胸が硬直した。

今日は、ロリータファッションではなくて 上品な白いニットコートの彼女は、まるで……クリスマスの夜に舞い降りた 天使かのようだった。

他の女の子との、圧倒的なオーラの違いに……
この子の周りだけ 硝子のバリケードでも張り巡らされているのでは ないかと 目が錯覚する。

それほど 彼女は、一点の汚れもなく……くすみのない美しい存在に感じた。

シンは、ワシワシと人混みを 掻き分けて そんな彼女の前に立ち塞がると、自分の身体でカオリちゃんを押しやるようにして……入口の外に彼女を促した。

フワッと粉雪が 舞い上がり……私と鈴ちゃんの前に吹き込んでくる。

シンとカオリちゃんの 香水が混じりあって、扉が閉まると同時に 残り香と粉雪が……パラッと……

私を 取り残した。

「 紗奈。 大丈夫だよ!」

鈴ちゃんが 私の気持ちを気遣って、しらっと半券の数を数え始める。

「……もー! 大丈夫だってぇ。」
2度繰り返す鈴ちゃんに……

「 うん。」と頷きながら、目を合わせられないでいる。

顔を上げたなら、この曖昧すぎる表情を 誰かに笑われそうで……長めの横髪で 顔を隠した。
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