No border ~雨も月も…君との距離も~
20章 嘘つきな 粉雪
少し先に警告灯の赤い光が テントやステージ裏の鉄骨に ぶつかりながらグルグル回っているのが わかる。

はぁ……はぁ……

お願い……

はぁ…… はぁ……

地面が 左右に歪んでいる。

私の三半規管が ざわつく。…ふらつく感覚と目眩すら…振り切る。

「 …………シンっ!! 」

私の声にならない声に、タケル君が振り返る。

「 紗奈ちゃんっ。」

「 タケル君、無事でよかった……シンは? 」

「 ……突然 だった。想定外の突風がステージ裏でビル風みたいに 強くて……

俺たちが ステージを降りた瞬間。

……パネルの一部が倒れてきて 、

シンを かばって、夏香さんが……。」

「 えっ……!! そんなっ…… 」

「 大丈夫、シンは無傷だよ。」

私は、もう一度……息を吐いて、鼓動を押さえてから再び シンを探した。


救急車の後部を覗き込む シンの目の前で、救急隊員が
扉を閉める。

シンの後ろ姿を捉えた私は……ただ 彼の背中を見つめるだけで、その場から 動けなくなっていた。

シンは 静かに振り返ると すぐにハッとして 私に気づいた。

「 紗……奈……。」

青い顔で 口を開く。

「 シン……っ。 夏香さんはっ?」

「 ……意識はあるよ。右の 膝下が パネルの下になって……。

紗奈……頼んでもいいかな…。

俺たち、あと 1ステージ 残ってっから…代わりに病院に 付き添ってやってくれる…?」

「 ……わかった。」

「 ……夏香に……ついてて やって……。」

「 わかった。 ついてる……。」

少し 強めの風が またテントの間を駆け抜けて……スタッフが慌てる。

慌てて、テントを押さえる。

次のバンドの歓声が 真後ろなのに……どこか遠くから聞こえるような 気がする。

クリスマスソングを拐う 突風は、その後すぐにおさまり…冬らしい木枯しに 姿を変えた。

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