No border ~雨も月も…君との距離も~
しばらく 沈黙する2人の間に 、入口の扉が 勢いよく 開いた。

築25年ほどの 古くなったライブハウスの入口の強化ガラスは、最近では 少しの風にも 小さく震えているような気がする。

外から 突然入ってきた 冬の気配を感じる夜風に、

甘ずっぱい 柑橘系の 香りが 混じる。

あっという間に、女2人の沈殿する空気を 巻き上げて、シンは「……おっス!」と少しだけ 首を上下させた。

乱暴に、この空間を 壊しておきながら……

「アレ?……なんか、今 ヤバかった?」

なんて、きょとんとした顔をする。


ー 北陸 ー

こんな地方の 小さなライブハウスだけれど、
名前だけは『BIG 4』。

なんで……4? その辺は、謎。

そのBIG4の 一番 売れっ子といえば、最近は
もっぱら このシンが 歌っている、
『ash(アッシュ)』 というバンド。

ハードロックかと思えば……シンの透き通るようなファルセットが響く、甘いバラード。

そして……なんと言っても、ズルいくらいにメンバー4人とも 個性の違うイケメンときたもんだ。

総動員200人ほどの 小さなBIG4を
満員御礼に出来るのは、今のところ……ashしかいないように思う。

田舎の地方バンドは、これだけ集めれば 優秀で、
彼らは、この小さな街の期待の星であり……
会いに行ける、アイドル的存在でもあった。

でも、 私……コイツ苦手。

シンは、思わず目を逸らしたくなるような綺麗な
男の子。

たぶん……間違えて目を合わせてしまったら

石になるっ!

ギリシャの怪物……何? あっ!そう …メドゥーサ……ではないけど。

切れ長の 涼しげな目元は、鋭い色気が……
キュンと溢れるような 憂いをおびていて

大半の女子は、そんな彼の 鋭さと 可愛らしさの
間で……戸惑い、

右目じりの 泣きボクロに よからぬ誘惑?を
感じて……殺られる。

それから、高くてシュッとした鼻は、これまた…ギリシャの彫刻のように、日本人離れしているし

輪郭を はっきりさせた 男の子らしい唇は、
ちょっとイジワルそうに キュッと口角をあげて
笑ったりするのだから……ヤバい……。

半乾きの 茶髪の前髪の隙間から 笑うと垂れる
あの瞳に……

食べられる。

飲み込まれる。

食い散らかされる……。

甘ずっぱい 柑橘系の 香水の香りは
いつもの彼の匂い。

きっと…女性用の香水…。

階段に 座り込む 私に、視線を 合わすかのように
シンは無邪気にしゃがんだ。

チャリ……と彼の腕のアクセが、擦れる音。

「泣いてた? もしかして。」

色っぽい 流し目と、低いのに 透き通るような声が私の心拍数を 上げる。

「な……泣いて ないし。」

マジで 無理。 この……モテ男感。

なのに シンは 会えば こんな風に絡んでくる。

きっと、私を 茶化してる。

「ねぇ。 シン、不倫ってどう思う?」

「鈴ちゃんっーー!!ちょっとぉ!!」

突然の問いかけに、シンは しゃがんだまま カウンターの 鈴ちゃんを 見上げる。

親指を 下唇にあてて、しばらく考えた顔を しつつも……

「別に。 本人たちの自由だし。 いいんじゃね。」

なんて、超無責任な返事をして すごい目力で 私に
顔を向けた。

私の事だって 直感している 瞳(め)。

鈴ちゃんの陰謀……(涙)

余程……私を 軽蔑しているのかも。(泣)






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