エリート御曹司は獣でした
「久瀬くん、ちょっといい?」と親しげな口の利き方をしたのは、第二課所属のOL、乗友明美(のりとも あけみ)さんだ。

ゆったりと波打つミルクチョコレート色の長い髪をひとつに束ね、有名ブランドのマークがついた水色のオフィススーツを身に纏った彼女は、久瀬さんの同期で、彼をあからさまに狙っている女性社員の内のひとりである。


目鼻立ちのはっきりとした美人で、その容姿を鼻にかけるところがあり、香織や綾乃さんは苦手なようだけど、私はそうでもない。

というより、業務上の接点が薄いから、ほとんど会話を交わしたことがない。

最近、挨拶以外の話をしたのは、たぶん三カ月ほども前のことではないだろうか。

出勤してコートを脱いだ私に乗友さんが寄ってきて、『そのスカート、もしかしてあのブランドの?』と急に問いかけてきたのだ。


『違いますよ。このスカートは安物の殿堂のあの店のものです。ブランドに見えました?ヤッタ、いい買い物したー!』


そんな返しをした私に、彼女はすぐに興味を失った顔をして、離れていった。

それくらいの関わりしかないので、私には乗友さんに対する苦手意識がないのだ。


久瀬さんは、どうだろう……。
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