エリート御曹司は獣でした
昨日は間違いなく口止めして、八重子ちゃんからも『誰にも話しません』という承諾をもらったはずなのに、どうして……。

ジロリと睨みつつ、「話したら駄目だと言ったよね?」と非難すれば、八重子ちゃんは「もちろん話してません」と矛盾することを言う。


「乗友さんたちと喧嘩になったことは、ひと言も話していませんよ。お互い働きにくくなりますよね。何事もなかったことにしておいた方がいいのは、私にもわかります」


いや、秘密にしてほしかったのは、それじゃないんだよ……。


八重子ちゃんを責める気持ちはすぐに消え、これは私のミスだと反省する。

相手が八重子ちゃんなのだから、なにを言ってはいけないのかを、もっと具体的に指示するべきだった。


私の口止めが不十分だったばかりに、久瀬さんに迷惑をかけてしまった……。


ここからでは、集団に囲まれている久瀬さんの姿を見ることができないが、きっと困り顔をしていることだろうと推測し、心の中で謝罪する。


私と噂になるなんて、嫌ですよね。ごめんなさい。

否定してくれてもいいですよ。乗友さんたちにまた嫌がらせをされることになっても、今度は自分の力でなんとかしますから……。


大きなため息を床に向けて吐いたら、誰かに腕を取られて立たされた。

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