恋の神様に受験合格祈願をしたら?
 俺は思いもしない展開に固まった。
 まわりを見れば、居合わせた全員がこちらを見ながら素通りしていく。
 一人、見知った顔が困った表情で俺を見ていた。
 澤村隆一ことリューイチ。
 今年度後期の生徒会長であり、来年度前期の生徒会長だ。
 リューイチが、右手で先を指した。
 ジェスチャーだ。
 先に行ってるってことだな?
 俺は片手を顔の前に立てて、謝るポーズをした。
 ああ、行っててくれ。
 スマン、遅れる。
 リューイチが頷いて歩きだした。
 リューイチは数少ない俺の親友だ。
 そして、幼馴染の腐れ縁だ。
 だから、簡単に意思の疎通がはかれる。
 よしっ!
 これで気兼ねなく遅刻ができる。
 俺は女の子の肩をそっと抱いた。
 そして、ほんの少しだけ力を込めて歩くように促した。
 女の子が、操り人形のように簡単に歩きだした。
「一緒に上西高校に行こう。ついたらすぐに手当するから。だから、もう泣かないで」
 エスコートするように歩きながら、俺は女の子を抱く手に集中した。
 抱いてわかる。
 この子、すべてが小さすぎる。
 今入れている力の加減が正しいのかどうかわからなくて、俺は内心狼狽えていた。
 力加減を少しでも誤ったら、女の子を倒してしまいそうで怖い。
 俺は、初めて異性を一人の女性として意識した。
 幼稚園のとき、少しだけ女の先生を意識したことがあったけど、あのときの『俺だけをかまえ』な気持ちとは全然違う。
 あのときは、先生の目を引くのにただただ躍起になっていた。緊張感なんてなくて、ただただ自分を主張するのに忙しかった。
 今は逆だ。
 緊張しすぎて、右手と右足が一緒に出そうだ。
 俺は女の子を傷つけないよう、細心の注意を払いつつ、ビクビクドキドキしながら歩いた。
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