クールなアイドルの熱烈アプローチ
「ただいま帰りましたー」

仕事が終わって帰ってきた陽菜が可愛らしくひょこっとキッチンに顔を出したのを見て勇人は目を細めて、おかえり。と声をかけた。
どこかワクワクした様子の陽菜に首を傾げると、陽菜は勇人の手元に視線を移した。

「ご飯、ありがとうございます。
今日は何ですか?」

「ハンバーグ」

「わあ、やっぱり!勇人さんの作るハンバーグ、大好きです!」

きっと家に帰ってきた瞬間に漂ってきた匂いに今晩のメニューに気付いていたのであろう陽菜が目を輝かせ嬉しそうに微笑むのを見て勇人も微笑んだ。

今まで料理など作ったことがなかった勇人だが、陽菜がハンバーグが好きだと朝陽に聞いてから業界内の伝を頼ってたくさんのレシピを手に入れた。
ソースや肉、色々な配合や作り方を変えて作り続けては朝陽に試食してもらう。
やがて、根気よく付き合ってくれていた朝陽から陽菜の好きな味の太鼓判をもらうと勇人は早速その日の夕食にそのハンバーグを陽菜に出した。

“すっごく美味しいです!今まで食べた中で一番好きかもしれません”

そう言って本当に美味しそうに食べる陽菜の事を、勇人はまた好きになった。

新しい面を見つけては何度も好きになる。
勇人が限りなどなさそうなこの想いに溺れてしまいそうになっているうちに陽菜は、早く片付けてきますね。と自室に向かった。
そんな陽菜の後ろ姿を勇人は無言で見つめていた。

ーーいつ言いだそうか……。

失念していた新婚旅行、今日見た生放送、堀原や事務所と話し合って調整した連休。

きっと、新婚旅行に行っていないことに気付いていても多忙を極めている勇人に遠慮して言わなかったのであろう陽菜に申し訳なく思いながら、ふっくらと美味しそうに出来上がったハンバーグを皿の上に盛り付けていった。
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