契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
私は意を決して、再びスプーンを手に取った。
そしてごく少量の餡子を口に含んでスプーンを置くと、立ち上がって作業台に身を乗り出し、両手で彰さんの顔をしっかりと挟む。
「結奈? 一体何して――」
そして戸惑う彼の声をふさぐように、私は強く唇を押し付けた。
呆気に取られて半開きになる彼の唇の隙間から、小さな甘いかたまりをそっと舌に載せて、彼の舌の上へと届ける。
……よし、うまくいったみたい。
私はゆっくり唇を話して彼を見つめた。
「どうですか? 彰さん」
視線の先の彼は、意表を突かれた表情をしながらも、小さく口を動かして餡子を味わっている。
口移しだなんて強引なやり方が、もし失敗だったら……彰さんに余計苦しい思いをさせてしまうことになる。そうなれば、もう二度と餡子を口にできないかもしれない。
行動したはいいものの、不安な気持ちがふくらんできて、ハラハラしながら彼が口を開くのを待つ。
やがて、骨ばった喉仏を上下させ、無事に餡子を飲み込んだらしい彼が、静かに目を閉じてこう言った。