契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

彰さんと母は勝手に引っ越しの話で盛り上がり始める。

「家具がそちらにあるなら、結奈の荷物なんて服くらいなもので、引っ越しは簡単に済みそうね」

「ええ。ここからも遠くはないですし、何か忘れ物があればまた取りに来ます」

幸い、新居はどうやら遠くはないらしい。それなら離婚して実家に戻るとなった時にも安心だ。

母は娘がそんな縁起でもないことを考えているとはつゆ知らず、彰さんに深々と頭を下げている。

「食い気ばっかりの娘だけど、どうかよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ。結奈さんを、必ず幸せにしてみせます」

彰さん。最後に〝和菓子の力を借りて〟っていうのを付け足し忘れてますよ。

内心そう毒づいたけれど、二人の間に割って入る勇気はなく。

……とりあえず、水まんじゅう食べて落ち着こう。

母と彰さんのやりとりをぼんやり眺めながら、竹の楊枝で一口大にした水まんじゅうをぱくりと口に含む。

「おいしっ」と小さく声を上げたら彰さんがこっちを見て微笑んだので、なんだか照れくさくなって残りの水まんじゅうは半ばやけくそでほおばった。


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