◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
「最近、僕が真剣に漫画家を目指していることが、父の耳に入っていたみたいでね」
「うん」
「実はそれについて、かなり怒っていたみたいで」

「ええ?」

 そうだったの!?

 全然知らなかった。
 もしかして頻繁に出入りしていた自分のことも何か言われているのだろうかと愛里は背筋が凍る。

「それで僕が、仕事をセーブして、もう少し創作の時間を増やしたいと……言ったもんだから」
「うん」
「出てけって」

 ……えええええぇぇぇぇ。

 聞きたい事柄が脳内に殺到して――愛里は額を押さえる。
 
「それで、出てきたの?」
「うん」

 小学生の時も、怒り狂った先生に「教室から出ていけ」と言われてしまったとき「ごめんなさい」と謝り続けるタイプの子と、言われた通り本当に出ていってしまうタイプの子がいたが、尚貴は意外にも後者らしい。

「もっと早く出ていくべきだったんだ」

 いや、後悔した様子がまるでない尚貴は、どちらのタイプというより、いつか出ていきたかったのかもしれない。
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