◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
「なおさんのお父さんも、きっと、びっくりしていると思うよ。なおさんが、ここまで真剣だったなんて」
「戻れないよ」
「意地張らないで、戻ればいいんだよ!」
思わず、語気が強まった。
「いいじゃん! なおさんは、御曹司なんだから。漫画を描けるときに、自分のペースで、好きに描いていけばいい」
そうだ。こんな窮屈な暮らし、なおさんにはやっぱり似合わない。商業に合わせて、自分らしさを捨てるなんてことも。
尚貴は少したじろいで、でも、静かに言った。
「いや、僕も考えたんだよ。たしかに、父さんの気持ちも、もっともだって。フジタの役職に就かせるため、僕にこれまで修行させてきた。それなのに、僕に、その気がないんだから、怒るよね。漫画の道を行きたいなんて僕はすごくわがままを言っている。追い出されても仕方ないんだなって」
「うん。でもそれは、謝ったらきっとさ……」
とりなそうとする愛里に、尚貴はきっぱりと首を横に振った。
「でも、僕は、応える気はない」