秋に、君に恋をする。
3



 次の日の朝、目を覚ましたら勇太朗はいなかった。

バイトだし仕方ないか、と思う反面、何だよ起こせよー何も言わないで行くなよ、と不貞腐れそうになった。

台所からいい匂いがしたので、目をこすりながらそこまで行く。


「あら、あきはおはよう」

「おばあちゃんおはよー」

「おーおはよ」

「あ、おはよー…って、え、なんで勇太朗いるの?」

「あ?」


台所から繋がっている茶の間のテレビの前で、胡坐をかきながらNHKを見ていた。

頭もぼさぼさで、目も半開きだったから、寝起きだという事はすぐにわかった。


「バイトは?」

「あー、大丈夫」

「ちょっと答えてよ」

「んー、代わってもらった」

「え?」


彼が小さく言ったのを、聞き逃さなかった。

ちゃんと聞こえたけれど、聞き間違いかと思った。

 

「なんで?あんなにバイト命だったのに」

「いや別にそんなんじゃないけど…」

「体調悪いの?大丈夫?」

「はー、お前ってほんと鈍すぎ」

「は」

「ご飯食ったら準備しろよ。行くんだろコスモス祭り」


開いた口が塞がらないとは、まさしく今の私のような状態を言うんだと思った。

あんなにお金が欲しい為にバイトをしていた彼が、コスモス祭りに行くためにバイトを休んだ。

コスモス祭りの為なんじゃなくて、私の為だと思ってもいいのかな、と少し自惚れてみた。



< 25 / 31 >

この作品をシェア

pagetop