ヴァンパイア夜曲


乱立する木々の向こうに光る鋭い牙。

血に飢えた赤い瞳が獲物をとらえたようにこちらを見つめている。


「…囲まれたか」


「だね。早速お出ましとは、想像よりもずっと危険なエリアらしい」


銃とレイピアを構えるシドとランディ。

現れたのは数十体のスティグマ。ローガスが放った刺客だろうか。

ぐいっ!と引き寄せられる腕。

真剣な表情のシドが短く指示を飛ばす。


「ランディ、お前は遠方のスティグマを狩れ。俺はここから動かずに、近づく敵を狙撃する。」


無言で頷いたランディはわずかに瞳の色を赤く変えた。彼の体に流れる純血が高ぶっている。

臨戦態勢の中、シドが素早く囁いた。


「レイシア。お前は俺から離れるな。怖かったら目ぇつぶってろ」


彼の黒コートに、ぎゅっ!としがみつく。

拳銃の黒い銃口が、まっすぐスティグマに向けられた。


パァン!!


開戦の合図のごとく鳴り響く銃声。

一気に飛びかかってきたスティグマは、全方位を囲んでいる。

地面を蹴って斬り込んだランディ。流れるような剣さばきは一つの無駄もなく敵を貫いた。

しかし予想以上に数が多い。次々と灰と化していくが、その勢いはとどまることを知らないようだ。


乱れ飛ぶ弾丸。

仕留めていく最中、シドがわずかに目を細めた。その視線の先にあったのは、銃に込められた魔法石。


(シド…?)


思わず彼を見上げたその時。

切迫したようなランディの声が森に響いた。


「シド!後ろ!!」


はっ!とした瞬間、振りかざされる爪。

暗闇からの奇襲に一瞬反応が遅れる。

倒れる前方の敵。

背後から迫るスティグマ。

銃を構えるモーションが間に合わない。

< 200 / 257 >

この作品をシェア

pagetop