ヴァンパイア夜曲

思いもよらない言葉に顔色が変わる。シドも目を細めて彼に尋ねた。


「スティグマがよく出るだと?」


「あぁ。最近カナリックでは昼まで何ともなかったヴァンパイアが急にスティグマになる怪奇現象が起きているから、おちおち夜の散歩にも出られないんだよ」


彼の話では、夜になると街に住むヴァンパイアが原因不明で暴れ出し、スティグマとなって翌日死んでいるのが見つかる事件が多発しているらしい。

街には襲われた人が何人もいるようで、皆、夜は怯えてあまり外に出ないようだ。


「急に声をかけてすみません。私たち、今日この街にきた旅人なんですが、宿屋の場所を教えて欲しくて…」


おずおずと私がそう尋ねると、男性は「あぁ、そうだったのか!」と顔を明るくして答える。


「街の宿屋はベイリーン家の屋敷の近くにあるぞ」


「ベイリーン家の屋敷?」


「あぁ。ほら、見えるだろ?街の中心部にあるあのドでかい屋敷が、我が街の大富豪である純血のヴァンパイア一族、ベイリーン家の豪邸さ」


男性の指差す方向へ視線を向けると、月の光に照らされて、一体何部屋あるのか分からないほどのお屋敷がどんと門を構えていた。

男性は、屋敷を見つめながらぽつりと呟く。


「ベイリーン家の主人はここら一帯の商業や貿易を取り仕切ってる大金持ちなのさ。たしか、奥様は早くに亡くなったらしいがあそこには跡取りの優秀な息子がいるんだよ」


< 50 / 257 >

この作品をシェア

pagetop