放課後の準備室、先生と。
・



 午後5時。夕暮れを迎えた遊園地は、人がまばらだ。

 閉園時間まで、あと一時間。この手を離すまで____あと、一時間。

 先生はきっと、そんな私の気持ちに気づきはしないだろうけれど。

 嫌いだと私が宣告した人の横顔は、めいいっぱい楽しんだ人の顔だ。確かに先生と過ごした時間は、とても楽しかった。

 ぎゅうっと、先程先生がくれた、くまのぬいぐるみを抱きしめる。別に欲しいと言ったわけじゃないけれど、先生は本当に人をよく見ているらしい。

 「これでいいの?」

 と、声をかけられた時にはもう、先生はレジに向かっていて。

 ……今日は、本当に、楽しんでしまった。

 「あ」

 園内を並んで歩いている途中、ふと先生はそう声をあげた。つられて顔をあげると、目の前には喫煙所があった。

 思えば今日は私に付き合ってもらいっぱなしで、先生のしたいことをしてない。

 「吸ってきますか?」

 「……じゃあ、お言葉に甘えて一本だけ」

 そこで待ってて、と先生が言うので、私は喫煙所近くで待つことになった。

 手持ち無沙汰になり、先生がくれたくまのぬいぐるみを見つめる。くりっとした目に、茶色のふわふわの毛並み。私はその目をまっすぐ見つめながら、ふと思い出した。

 確か、ぬいぐるみにリボンを巻いてあげた日が、誕生日になる、みたいな話。だが、今手元にリボンはない。
 
 「じゃあ、代わりに名前つけて」

 そんな声が聞こえてきたような気がした。

 私はくまをまっすぐと見る。黒色のまん丸の瞳が私を見つめ返してくる。

 「名前かあ……」

 少しだけ悩むフリをして__本当は、今日ずっと呼びたかった名前を、呼んでみた。

 「彼方、さん」

 呼んでみてからなんだか照れ臭くなって、つい、くまのぬいぐるみを抱きしめる。

 そんな私を、先生が後ろから抱きしめた。

 「えっ……あ、のっ」

 ふわり、と煙草の匂いをさせた先生の体温。理性を壊しそうになるくらい熱く感じる、私を確実に壊していく熱。

 それは、私の先生への気持ちが、少しずつ変わっているから、だろうか。

 「ねえ、最後に観覧車乗らない?」

 先生は私のことをさらに強く抱きしめながら、囁いた。

 私がコクリと頷くと、先生はありがとうと嬉しそうに笑った。

 __最後。このデートも、もうすぐ、終わる。



・
< 6 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop