ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
顔を強張らせたまま視線を伏せていたら、海莉が「行こ」とあたしの腕をグイグイ引っ張って、そのまま教室の中に入った。


そして海莉は無言で自分の机と隣の机をくっつけて、お弁当を食べる場所の準備をしてくれている。


あたしは自分の席からお弁当を持って来て、海莉が用意してくれた席に座った。


なんとも微妙な空気のまま、お弁当タイムが始まる。


このまま食べると消化に悪そうで、あたしは空気を変えるために、できるだけ普通な口調で海莉に話しかけた。


「ねえ、海莉」


「なに?」


「今日の海莉のお弁当って、なにそれ」


お弁当のご飯にふりかけを振りながら聞くあたしに、海莉は平然と答えた。


「バナナ」


「……バナナ?」


「そ。見てわかんない? バナナ」


いや、まあ、わかるけどね。バナナは。


でも今ここで問題なのは、そういうことじゃないでしょ。


なぜ海莉の机の上に乗っているのが普通のお弁当箱じゃなくて、ドーンとバナナひと房なのか? ってことなんだけど。


「ご近所さんから、なぜか大量にバナナのおすそ分けがあったのよ。ちょうど食べ頃の」


「たしかに、いい具合に黒い斑点が表面に浮かんでるね。そのバナナ」


「でしょ? バナナってあんまり日持ちしないからさ。一家全員で大急ぎで消費に努めてんの」
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