ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
あたしは、別居してからずっとお母さんが苦しんでいたのを一番身近で見てきた。


苦しいのも悲しいのも、あたしだけじゃないってこと、ちゃんと知ってる。


だからこれ以上、あんな風にお母さんが泣く姿を見たくない。


もそもそとベッドから起き上がってダイニングに行くと、お母さんが機械的に動き回りながら、朝ご飯の用意をしてた。


まるでロボットみたいな無表情。あんな顔した母親に、なんて声をかければいいんだろう。


「……おはよう。お母さん」


「あ、瑞樹。おはよう」


あたしの顔を見てお母さんは少しホッとした表情になったけれど、すぐにあたしから目を逸らして、また機械的に手を動かし始める。


その姿が、昨日の お父さんの姿と重なった。


ふたりとも、あたしから目を逸らしてばっかりだ……。


テレビの音も聞こえない、信じられないほど気まずく静まり返った空気が部屋中に充満していて、肺を圧迫して息苦しい。


あたしは黙ってテーブルに着いて、無理やりカップスープを飲み込んだ。


黙々とトーストを胃に流し込み、お母さんから逃げるようにダイニングを出て、身支度を整える。


行ってきますの挨拶もしないまま玄関を出て、学校に向かいながら、また悲しみが込み上げてきた。


通学路の途中で目にする人たち全員が、すごくうらやましく見えたから。
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