玻璃の向こう
「夫婦二人でやっている、こぢんまりしたイタリアンです。いま流行りのSNS映えとかは無縁だけど、味は保証しますよ」
一花の内心を読んだように、圭介が説明してくれる。

いいな、そういうお店。期待がふくらんでゆく。

表通りで車を降りると、圭介は細い路地へと入ってゆく。行きつけというだけあって、足どりに迷いがない。

「贔屓のお店があるって素敵ですね」
隣を歩く彼を見上げて話しかける。

「安心できるし、それにちょっとわがままも聞いてもらえるんです。たまにワインを持ち込ませてもらったり」
圭介は淡々と答える。

ネットやグルメ誌でもてはやされる人気店とは違う。自分の舌と感性で選んだ店に通い、なじみの客になっている。
七村圭介はたしか自分より二つほど年上なはずだけど、ずいぶん大人に感じられた。
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