望月さんの好きな人
◇ ◇ ◇

「いただいたパワポの資料、一応英文に直してみたんですが‥‥自信、あるようなないような」

「宮原の英語力は結構信頼してるよ。軽く目通して見るから大丈夫。忙しいのにありがとう」

はぁ、好きです。
ポロリとそんな言葉を出せるものならどれだけ楽か。望月さんは本当に紳士な人で、告白してくれた人にもすごく気を使うし、翌日きちんと出社できているか地で心配するようタイプ。

そんな人にこんなに近いわたしが告白なんてしちゃったら、向こうが気を使って気まずくなること必至だ。
うっかりバレンタインにチョコ渡して告白‥‥なんてする前に彼に好きな人がいると知れてよかった。心が抉れるほど辛いけど。



「なーんかもう、やる気なくなっちゃった」
「何言ってんのよ!望月さんが好きな人、凛子かもしれないじゃない」

大きなお腹を抱え自分で作ったお弁当を食べる、同期の紗奈はもう直ぐ産休に入る。27歳でママだ。

「それ、本気で言ってる?」
「あの王子が‥‥女なんて選り取りみどりだろうし、確率は低いと思うけど。ないわけじゃないと思う」

慰めをありがとうよ、紗奈。

会社近くのデパートの屋上。空を仰ぎながらランチをするのはお互い仕事が忙しかったり外出していたりと特別なことがない限りほぼ毎日。
わたしが望月さんを好きだと知っているのもなんでも話せるのも、会社では紗奈だけだったりする。

「紗奈〜元気な赤ちゃん産んでね。次はその子に愛を向けるから」
「ちょっ、恋がダメそうだからってその愛をこっちには向けなくていいよ〜」
「やだーやだやだー」

紗奈は中学時代から付き合った彼と3年前に結婚して、その彼との子供を産む。純愛中の純愛だ。幸せそうに微笑む彼女を見て、わたしも幸せな恋をしようと思えた。
< 2 / 13 >

この作品をシェア

pagetop