望月さんの好きな人
いつのまにか、森戸からの着信は切れていた。
そして同時に堰を切ったようにわたしの瞳から涙がこぼれた。

泣きたくない、こんなところで。頭ではわかっている。泣いちゃダメだし、面倒臭すぎるし。
たかが失恋したくらいで。告白させてもらえなかったくらいで。叶わないことは分かっていたのになんで止まらないんだろう‥。

「望月さっ、ごめんなさいっ、」

泣いてごめんなさい
好きになってごめんなさい

言葉にならない。望月さんの表情見えない。

「宮原さん‥泣かせてごめん」

ううん、泣いてごめんなさい。そう言いたいのにそれすら言葉にできない。

「もう、帰ります‥ごめんなさい」

涙でぼやける視界。バッグを持ち、腰を上げた。


「なんで?」

テーブルについた右手は望月さんの左手に掴まれた。

「なんでって‥こっちのセリフですっ」

もうわけがわからない。何もわからない。
恥をかかせてごめんなさい‥。これ以上かかせないように、わたしは帰るから。そう言いたいのに。
どうして望月さんはわたしを止めるの。

「話を聞いて、宮原さん」
「いや、聞きたくないですっ」
「とりあえず座って。次デザートだから、それだけ食べたら帰ろう‥」

冷静にそう言われ、何も言えなくなってしまった。
たしかにそうだ。いくら取り乱したとは言え‥途中で帰るなんてありえないかもしれない。コース料理だし、店側もどうしたらいいのってなるよね。子供すぎた‥。

「すみません‥」

腰を下ろし、デザートを待った。
望月さんからの視線を痛いくらい感じて落ち着かない。

「そんなに見ないでもらえませんか‥」

もうとっくにわたしの気持ちはバレている。そんなに見ることはないでしょう。涙はもう止まったけれど、まだ胸は痛いし失恋は悲しいし見世物でもないんだけどな‥。

抗議の意味でチラリと望月さんを見ると、彼は、さっきとは打って変わってびっくりするくらい笑顔だった。
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