もう一度〜あなたしか見えない〜
弁護士事務所を辞した私は、そのまま家に帰る気にもならず、1人で街をぶらついた。


土曜日の昼下がり、街は幸せそうな人々であふれ、私のように1人で所在なさげにさまよっているような人は、誰もいないように見える。僻みかもしれないけど。


あてもなく歩くのにも疲れ、休憩と昼食を摂ろうと、外の見える店に。こんな時でも、人はお腹がすくものなんだ、なんてぼんやり考えながら、注文したパスタを口に運ぶ。


謝罪もいらない、慰謝料も取るつもりもない、だから一刻も早く別れてくれ。それが夫の要求なのだそうだ。あの人にとって、私はもはや、同じ空気を吸うのも汚らわしい存在なのかもしれない。逆の立場だったら、私もきっとそう思うのだろう。


だけど、私は夫を愛してる。夫のいない人生なんて考えられない。なら何で不倫なんかしたんだと言われると言葉に詰まる。ごめんなさい、としか言えない。夫がいてくれるから、私は安心して他の男に身を任せられたのだ、なんてもし言ったら、私はそれこそ、全世界からの非難を一身を浴びてしまうのだろう。


気が付いたら、私は家の前に居た。結局、夫がいようといまいと、私の帰る場所はここしかないのだ。


家に入ろうと、カギをバックから取り出そうとした時、私は思わず目を見張った。


灯りが点いた・・・今、間違いなく、家の灯りが点いたのだ。私は慌ててカギを手にした。
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