もう一度〜あなたしか見えない〜
その質問の意味を理解した私は、一瞬躊躇したけど


「うん。」


と肯いた。


その私の答えに、驚愕の表情を浮かべる元夫。


「あの時の・・・子だよ。」


私のその言葉を聞いた途端、元夫は、布団からパッと後ずさると


「申し訳ない!」


と言い、床にこすりつけるかのように頭を下げる。


「僕はとんでもないことをしてしまった。本当にお詫びのしようもない。」


「・・・。」


「今は、君の身体の負担が少しでも軽いうちに、処置してもらうしかない。本当に・・・。」


「それは、堕ろせっていうこと?」


懸命に謝罪の言葉を並べようとする元夫を遮るように、私は聞いた。


「えっ?」


「やっぱり、喜んではもらえないよね。」


「何を・・・言ってるんだよ。」


戸惑う元夫を見ながら、私はゆっくり身体を起こした。


「やっと授かったのにね。5年間、欲しかったのに、授かれなかった。当たり前だよね、あの頃の私の所に来てくれる赤ちゃんなんて、いないよ。最低の母親だもん。」


「・・・。」


「だから、妊娠したとわかった時は嬉しかった。やっと母親になってもいいって、認めて貰えたんだって。」


「でも、それは君が絶対に許さないって言った行為の結果で・・・。」


「本当に許せないんだったら、どんな理由があっても、こうして2人きりでなんて居ないよ。」


その言葉に息を呑んだように、私を見つめる元夫。


「でも、私忘れてた。私達の間で、許す立場なのはあなた。私じゃない。こんな大事なこと、忘れちゃうなんて・・・やっぱり私は最低。」


「・・・。」


「本当は、今日『出来たら一緒に育てて欲しい』って、お願いするつもりだった。でもそんなこと言う資格、やっぱり私にはないんだよ。」


そう言うと、思わず俯いてしまう。


「あなたが堕ろせと言うなら、堕ろします。でも、もし許してもらえるなら、産ませて欲しいです。私が責任を持って大切に育てます。あなたに迷惑は絶対に掛けないから・・・、だから、お願いします。」


そう言って、私は頭を下げる。


「仲間外れ、か・・・。」


「えっ?」


「仕方ないよな。今の僕じゃ、養育費だって払えやしない。でも、主夫として、君を支えることなら出来るか。」


その言葉に私は思わず吹き出した。


「あなたが主夫?」


「笑うなよ。確かに君の知っている僕なら、あり得ないだろうけど、君と別れた後は、ちゃんと自分でなんでもやって来たんだ。飯だって、君より上手いとは、言わないけど、それなりには作れるぞ。」


「う〜ん、でもあなたの作ったご飯は、やっぱりちょっと遠慮したいかな。お腹の赤ちゃんに障りそう。」


「ひでぇな。」


私達は、顔を見合わせて笑う。そして・・・、私は改めて姿勢を正して、座り直した。
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