卒業します
車はいつもの門をくぐり、見慣れた玄関で停まった。

多岐さんの出迎えの中、リビングに進む私達。

「今日、泊める。」

特別な話をしなくても通るって…………

多岐さんもグル!?

驚く私に、苦笑いを浮かべて

「さすがに多岐さんまでは、巻き込んでないよ。」と一言。

ホッ。

多岐さんまでグルだと、立ち直れないよ…………。

促されるままソファーに座ると

タイミングを計ったかのように、多岐さんカフェオレを入れて

持ってきてくれた。

この部屋に、隠しカメラなんて無いよね???

カメラの存在を疑うほどの、絶饒なタイミングなんだもん。

「どうぞ。」

春人さんが薦めてくれたのは

今一緒に行った、旅先で買ったケーキ屋さんのアップルパイ。

しっかり本でチェックを入れていたらしい春人さんは………

穴場中の穴場。

地元の人しか知らない場所にあるケーキ屋さんに

アップルパイを求めて車を走らせた。

山木先生と後藤君は慣れているようで

「またぁ?」

「今度は何のお菓子ですか?」と自然に流してた。

美味しそうだな。と思っていたアップルパイを前にしても

フォークを伸ばす気にはなれない。

こんな気持ちの日じゃなかったらなぁ。

恨めしく思いながら、春人さんを見ると
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