新月の夜はあなたを探しに
はぁーとため息をついて、リビングのソファーに座ってた葵音は後ろに倒れた。
目を瞑ると、笑顔の黒葉がどんどん遠くなっていってしまう様子が写し出された。小さくなる彼女は、葵音の手の届かない所に行ってしまいそうで、想像の中でも葵音は強く目を瞑りその幻像さえも拒否した。
「葵音さん?」
「っっ!!………黒葉……驚いたぞ。」
「何回か声を掛けたんですよ?」
「悪い……考え事をしていた。」
葵音の隣に黒葉が座っていた事にも気づかないぐらいに物思いにふけっていたのだ。
はぁーとため息をつきながら、体を起こす。
すると、黒葉は葵音の頭を撫で始めた。
その顔は何だか嬉しそうだった。
「どうしたんだ?人の頭撫でながら笑うなんて。」
「……私、葵音さんに頭撫でられると安心して嬉しい気持ちになるから、葵音さんにしてあげたいなって思ってたんですけど……撫でてるのが私なのに、なんだか私が嬉しくなりました。」
「………変なやつだな。」
葵音は幸せそうに笑う黒葉を見ていると、先程までの悩みが薄れていくようで、口元がほころんでしまった。
きっと考えすぎだ。
彼女は自分の隣でこんなにも笑顔で過ごしてくれているのだ。
時間が経てば、秘密にしていることだって話してくれるだろう。
そんな気がしてしてしまうのは、彼女の表情がとても幸せそうだからだろう。
「葵音さん、気分転換に買い物に付き合ってくれませんか?今日は重たいものをたくさん買いたいので………もし時間があればでいいんですけど。」
葵音の顔色を伺うように、黒葉はそう尋ねてきた。きっと、葵音がいつもと様子が違うのが気になって心配しているのだろう。
彼女の気配りに感謝しながら、今度は葵音が彼女の頭を撫でた。
「そうだな。久しぶりに外で昼食を食べるのもいいだろう。付き合ってくれないか?」
「はい!……あの、オムライスが食べたいです!チーズたっぷりの!」
「わかった。探しておくから、出掛ける準備してきてくれ。」
一気に元気になった黒葉を見て、葵音も思わず笑ってしまう。
そこではたと気づいた。
………自分も元気になっているという事に。
やはり彼女といると、安心できるのだと葵音は改めて思った。
そして、いつまでも隣にいて欲しいと。