新月の夜はあなたを探しに



 「そういうの、あるかもしれないな。黒葉ちゃんは何も言ってなかったのか?」
 「………あ、あぁ………。」
 「ん?どうした?」

 
 呆然としている葵音を見て、累はあっけらかんとした態度で葵音を見つめていた。
 

 「いや、信じてくれるのは思ってなくて……。」
 「おまえなー、これでもおまえの親友だと思ってたんだけど?それに、俺は占い師だ。こういう事を信じなくてどうする?」
 「……確かに、そうだな。」


 そうだった。
 累はこういう奴だった。
 
 クサイぐらいに純粋で、自分の価値観を持っているけれど、信用した人を信じすぎるぐらいに信じる。
 そんな男だった。

 そんな彼だからこそ、親友になれたし、こうやって信じてもらえないような話をしたのだ。
 
 少し感動して泣きそうになってしまいそうな顔を隠しながら、葵音は笑った。


 「それで、黒葉ちゃんの事を知る手がかりになるようなものとかないのか?」
 「前にこっそり部屋を覗いた時に、免許証と日記があったんだよ。日記は………ほとんど「今日も違った。」ばかりだったけどな。」
 「なるほどね………事故前に何てかいてあるのか気になるな。それに彼女の住所も。」
 「住所?」
 「あぁ………なんか引っ掛かるんだ。」


 そう言って考え込む累を横目に、葵音は事故のせいで汚れてしまった鞄から、鍵を取り出した。

 「明日でいいから、黒葉の部屋から日記と免許証を持ってきてくれないか?」
 「それはいいけど……。勝手に入っていいのか?」
 「親友なんだろ?預けるよ。黒葉の部屋は空き部屋だったところだ。机の引き出しに箱があるから、それごと持ってきてくれないか?」
 「わかったよ。他には?」
 「ノートパソコン。」
 「………わかったよ。」

 
 呆れた顔を見せる累だけれど、きっと明日の朝一で持ってきてくれるのだろうと、葵音にはわかっていた。
 仕事の依頼のメールやジュエリーの制作が遅れることを連絡しなければいけないのだ。
 1人で仕事をしていると、休んでいる暇もないなと思いながらも、少しずつ日常を感じられてホッしてしまう。

 けれど、今元気になって家に帰っても、黒葉はいないのだ。
 それが日常になってしまうのが、とても恐ろしかった。



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