3度目に、君を好きになったとき
Prologue~忘れられない

紅い夕陽が美術室の窓から零れ、柏木先輩の髪をセピア色に淡く溶かしていた。


いつもは優しげな先輩の顔が、今は微かに強張っている。

思い詰めたように視線を床に向け、一呼吸したあと、私の目を見つめた。


「好きなんだ、白坂(しらさか)さんのこと」

「え……」


思いがけない告白に私は目を見開く。


「白坂さんが美術部に入ってきたときから、好きだった」


先輩の真摯な想いに応えたいと思うのに、私の口から出てきたのは――


「ごめんなさい、私……」


残酷な断りの台詞だった。


「……そっか」


先輩は切なく微笑むと私の頬に手を伸ばした。


「それなら最後に……触れてもいい? そうすれば白坂さんのこと、忘れられそうだから」


低く遠慮がちに囁かれ、私は視線を揺らす。

先輩は春から伯王高校へ行ってしまうから。

私が同じ高校を目指さない限り、再び出会うことはもうないだろう。

長い指が一度ためらったあと、私の唇へ静かに触れる。
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