福山先輩、あのね。

何だろう? と思い拾ってみると、それは先輩のタオルだった。肩にかけていたものが、走っているうちに落ちてしまったんだろう。

わたしはかすかに汗の匂いがするそれを、ぎゅっと握って胸に押し当てた。

先輩の努力がしみついたタオル。温もりや情熱が伝わってくるようで、体中が熱くなる。

頭の中で何度も何度もリピートしているのは、ついさっきのやり取り。


『駅伝、がんばってくださいっ』

『……ありがとう!』


どうしよう、わたし。

気持ちが高鳴りすぎて、自分でもあきれるくらいバカなことを願ってしまうんだ。


……どうかお願い。

一日でも長く、秋が続いて。
冬が来ても、終わらないで。

春なんて来なくてもいいから、ずっと

大好きなあの人の後輩でいさせてください―――




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