氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧はすぐさま如月に文を出した。

式神が封じられている晴明特製の札で飛ばすと必ず本人の手に渡り、しかも届くまで早い。

文を鳥の形に折って空に放ると一目散に飛んで行ったのを見届けた朧は、朔と氷雨が話し終えるのをじっと待っていた。

そしてふたりの話が終わるとすぐさま氷雨に近付いて袖を引っ張ると、裏山の方を指した。


「ねえお師匠様、ついて来てほしい所があるんです」


「へ?裏山?建築中の家を見に行きたいのか?」


「ううん、もっと奥!」


「奥??」


全くもって意味のわからない氷雨が首を傾げると、事情を察した朔はひそりと笑って顎で裏手を指した。


「行って来い」


「あ、ああ、うん」


とりあえず朧に手を引かれるまま裏手へ行き、丘を上がり、建築中の家を横目で見ながら山を登り始めた時にさすがに気付いた氷雨は、ふっと笑って朧の手を引いて立ち止まらせた。


「なあ、そこに行くの早くね?」


「え?な…なんの話ですか?」


「あそこは息吹が子を願ってお参りし続けた祠だろ?俺たちまだ新婚じゃん。不妊かどうかも分からないのに行く必要ないと思うけど」


「一応!お参りしたいんです」


「まあいいけどさ、俺も早くお前との子が欲しいし」


ぱあっと顔を輝かせた朧と肩を並べて意外と急な坂を上った。

…息吹は毎日この丘を上がって祠を詣でたという。

その献身的な願いは感動的で、一時期母を嫌っていたことをとても悔いた。


「私、兄姉が多いから子沢山になりたいんです」


「おー、俺も一人っ子だから子沢山がいいな。しっかし急だなこの坂。負ぶってやろうか?」


「いいえ、自分で歩きます。お師匠様も一緒にお願いして下さいね?」


「んー、分かった」


緑の濃い山道を手を繋いで歩きながら、願いを抱き続けた。



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