悲しみの理由を忘れた少女
〜泣かないいい子ね〜

壊れそう?
突然西条くんの口から出てきたその言葉は妙に私の中に響いた。

そんな事ないよ西条くん。
私は、全然大丈夫なんだよ。
泣かないから、もう泣かないから。

『私は泣いちゃダメなの。』

それは、私がいつもいつも自分に言い聞かせている事だった。

私は、泣かない子。

小さい頃からずっと、家族の前でも泣いた事なんてほとんどない。

『泣かないいい子ね。』

私は、そんな普通に交わされた言葉にずっとずっと縛られてきた。

あの日は色々とタイミングが悪かったのだ。

それは小学生の頃のことだ。

私はその日一番仲のいい子に嫌われた。
嘘の噂が教室内にばら撒かれ冷たい視線を一生ぶん浴びて帰ってきた。

あの時は一生ぶんと思ったのだ。
それくらい辛かった。

今すぐにでも、泣きたい気持ち。それを無理やりに抑えて家に帰った。
でも、帰った家には親戚のおばさんがいて。

私がその時、一番したい事は泣くことだった。

のに。

「歩美ちゃんは泣かないいい子ね。」

感情に蓋をされたような気分になった。

泣いたら、いい子じゃなくなる。

そう思ったのだ。

「ママを守ってあげてね。」

話の流れで、普通に交わされたなんて事ない言葉だっただろう。
でも、あの時の私には辛かった。

泣けない。いい子でいたい。


私は泣いちゃダメなんだよ。
高校生にもなってそんな言葉に縛られている私は馬鹿みたい。
でも、ダメなの。

だって、泣かない子がいい子とは限らないけど。
でもだって、泣くなんて、迷惑なだけだろうから。
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