紡ぐ〜夫婦純愛物語〜
「センさんも、あまり手を付けられてませんでしたよね?」

確かに私も食事をほとんど取らなかったが、それは別に喉を通らないとかではなく、単に優作さんも食べてないのに、私だけ食べるのはどうなのかと思ったからだ。

でも、それを彼に伝えるのはいかがなものか。変に気を使うんじゃないだろうか。

「そうですね、あまりの豪華さに少し遠慮してしまいました。」

まぁ、このくらいなら全くの嘘というわけでもないしギリセーフだろう。

「そうなんですね。」

彼の一言を最後に沈黙が部屋を包んだ。

あれ?このあとどうなるんだろう。

そんな、考えが頭をよぎった。

「寝ましょうか。」

「!は、はい。」

突然の言葉に驚いたが、もう恐れている場合ではない。

子を!!子を作らねばならないのだから!!!

兜の緒を締めるように、帯を締めた。

決死の覚悟で布団の上に座ったのだが、

「明日は店に行って母に仕事を教えて貰ってください。それではおやすみなさい。」

だいぶまくしたてて、優作さんが言った。

(あれ?)

そうして、早々に灯りを消して自分の布団で寝てしまった。

(あれ?)

「お、おやすみなさい。」

真っ暗な部屋で彼の背中に向かってつぶやいた。

なんだろう、この虚無感。士気を高めた出陣前に突然敵が降参された侍、みたいな。切腹直前に、罪が取り消される罪人、みたいな。何とも言えない、不完全燃焼感。

そして、寂しいような虚しいような気持ちに駆られる。

その夜は、布団の中で悶々としていたが気がつくと夢の世界に行っていた。
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