君と僕のキセキ

「で、さっきめんどくさいとか言ってたそこの二年生は、どう?」

 先輩が二年生の一人に向かって問いかけると、

「まあ、別に月に二、三回くらいだったらやってもいいですけど……」

 その男子生徒は、ばつが悪そうに言った。



 無事に委員会を終え、解散となった後、私は先輩にお礼を言った。

「ありがとうございました」

 私は勢いよく頭を下げた。顔を上げると、先輩は驚いたように目を丸くしていた。



「いや。むしろこっちこそ、ありがとう。去年と同じなのもつまらないし、何か案出さなきゃって思ってたから助かった」



 それが、中学生の時に私と先輩が交わした唯一の会話で。そんなことなど、向こうはとうの昔に忘れているのだろう。

 私がバイト先の書店に採用されて、初めて先輩に挨拶したときも、彼は覚えている素振りを見せなかった。



 今のバイト先を選んだ理由だって、大学生になった先輩がそこでバイトしていることを知っていたからだった。

 バイトを始めようと思って募集のあるところを探したときに、他にも候補があったが、一方的にでも知っている人がいた方が良いという判断だった。



 先輩に対して抱いていたのは、元々は尊敬の念だけのはずだった。それが、一緒に仕事をすることで、徐々に別のものに変わっていったのだろう。



 先輩を好きな気持ちは、もう誤魔化しようがないほどに、私の中に確実に積もっていた。
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