君と僕のキセキ

 伊澄の言っていることはもっともだ。何事にも誠実だからこその見解とも言える。

 だけど……。キミの恋はきっと叶う。諦めないで。大丈夫。そんな風に応援してくれていたのも伊澄だ。



 それなのに、今このタイミングで、他の女性に対しても向き合え、というのは矛盾しているような気がする。

 彼女らしいようでいて、彼女らしくない。何だか不自然だ。



 それに、彼女自身が、自暴自棄になっているようにも思える。

 いったい、伊澄は何を思っているのだろうか。

 彼女の言葉の裏に隠された真意は、このときはまだ、僕には読み取れなかった。



「うん。ちゃんと向き合う。それはわかったけど、伊澄はどうしたの? 何かあった?」

 文月さんの件はいったん置いておく。それよりも、伊澄の様子が心配だった。



 例の、伊澄と気まずくなったという友人に何かされたのだろうか。もしそうだとしても、僕にはどうすることもできないのはわかっている。しかし、伊澄をこのまま放っておくこともできなかった。



 辛抱強く待ったが、石から返ってきたのは、

〈……ごめん。私、今日はもう帰るね〉

 彼女の弱々しい声で。



 申し訳なさそうな謝罪の言葉。それは同時に、僕が差し伸べた手を拒絶するものだった。



 明李さんへの片想いは諦めた方がいい。そんな伊澄の言葉は、きっと彼女の本心でない。僕はそれを理解している。だから、謝る必要なんてどこにもない。それよりも、どうしてそんなことを言い出したのかを教えて欲しかった。



「……うん」

 言いたいことはたくさんあったけれど、その全てを飲み込んで、僕は呟いた。これ以上は何を聞いても、彼女は口を閉ざしてしまうだろう。
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