君と僕のキセキ

 僕たちは、いつも通り第二食堂の前で落ち合った。

 すでに明李さんは入り口の前にいて、僕に気づくと手を振ってくれた。嬉しかったけれど、手を振り返すなんてことはできなくて、僕は小走りで彼女の元へ駆け寄った。



 明李さんはうどんを、僕はカレーライスを注文した。席に向かい合って座り、食べ始める。



 口をすぼめてうどんに息を吹きかける明李さんの姿が、何というか……すごく良い。耳に髪をかけているのも高ポイントだ。



 そんな姿をじっと見ていたら、明李さんが僕の視線に気づいてしまった。

「どうしたの?」



「ああ、いや……別に」

 どう誤魔化せばいいのか、必死で考える。



「あ、もしかして時光(ときみつ)くん、うどん食べたかった?」

「まあ、そんなところです」

 僕が食べたいのはあなたです、なんて台詞も思い浮かんだけれど、そっと心の奥底に封印する。



「少し食べる?」

 首を傾けて聞いてくる。かわいい。

「いえ、遠慮しておきます。僕、今日はカレーなので箸もないですし……」



「それなら私の箸使っても大丈夫だよ?」

 明李さんはそう言って、使用済みの箸を差し出してくる。いや、それは僕が大丈夫じゃないです。



「ほら、早く食べないと冷めちゃいますし、朽名(くつな)さんが美味しそうに食べてるのを見てるだけで十分ですから!」



「そう……」

 明李さんは残念そうな表情を浮かべる。ここまでワンセットで全て計算してやっているとしたら、小悪魔どころではなく閻魔(えんま)大王様だ。



 なんだか申し訳なくなって、明李さんから視線を外す。

 男子学生の集団が数人で談笑しながら食堂に入って来たのは、僕が偶然入り口を眺めたときだった。その中に、明李さんが同じ授業で知り合ったいうあのイケメンもいた。



 彼らは、学食に隣接している食品売り場に入って行った。おにぎりや菓子パン、ジュースなどが売られている、いわゆるコンビニのような施設だ。

 暫定恋敵である彼と伊澄さんを会わせたくなかったので、僕はホッとした。
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