君と僕のキセキ

 小屋を出ると、さっきの出来事が全て嘘に思えてきた。

 木々の向こうには、大学という学びの場を象徴するかような四角い建物が並んでいて、学生たちの話す声が遠くから聞こえてきた。



 小屋の中だけが非日常な空間で、そこから一歩でも外に出ると、途端に日常へ戻る。そんなイメージだった。



 書籍購買部は、正門の近くにある建物の二階に設けられていた。その建物の一階には、学生相談室……で合っているかどうか自信はないが、そんな感じの施設が入っている。



 今日は、明李(あかり)さんに会えるだろうか。

 僕は階段を上りながら、そんなことを考えていた。明李さんと話をする場面を想像するだけで、自然に頬が緩む。



 僕が朽名(くつな)明李さんと出会ったのは、今から一年と半年くらい前のことだった。





 大型連休も終わり、授業をサボり出す学生が急激に増加する五月半ば。

 僕が大学に入学してから、一ヶ月以上が過ぎた。

 友達を作るタイミングも、サークルに入るタイミングも逃した僕は、灰色のキャンパスライフを送っていた。



 入学する際に実家から離れ、アパートを借りて一人暮らしを始めたため、帰宅してからも孤独だった。朝起きてから夜寝るまで、一言も発さずに終える日もあったように思う。心細さは多少あったものの、寂しさなどはあまり感じなかった。



 一人でいることが気楽だったことに加えて、本を読むのが好きだったことも幸いしたのだろう。

 有限な文字だけで、無限に世界を創り、生命を生み出し、感動を与えることのできる小説という娯楽は、いつの間にか僕の人生の一部になっていた。
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