銘柄





バタン、と。

閉まりきった玄関の扉を背中に感じた私は、躊躇うことなく街中に歩を進めていく。





「(ほんと、なんで帰ってくるかな……)」


兄貴がいても、良いこと何にもないんだけど。





胸中ぶつくさと文句を付けていれば、向こう側から歩いてくる女子高生二人の姿を認めた。

何の気なしに通り過ぎようと視線を斜めに逸らして歩く私だったのだけれど。




「ねえねえ、聞いた?」

「なによー、ちょっと待って。もうちょっとでメール終わるから」

「あんたそればっかじゃん!いいから聞いてー!」







今日だけは何故か、その会話に聞き耳を立ててしまう自分が居て。


「なーによ、はいはい聞くから」

「聖龍の暴走、近々やるらしいよ!」

「え、……って、ええええええ!?」






"聖龍"の"暴走"?

なにそれ……動物園か何かの話?



思わず歩みを止めて女の子たちを見据えていれば、その視線に気付いたらしい彼女等も此方に目を向けていた。





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