銘柄

/week.20







場所はキッチン。特段なにを思う訳でもなく、日頃と同じように調理の手を進めていく。

じゃがいもの皮を剥いて、大きめに切って。

そこでふと、重大なことに気が付いた。ざるに移したじゃがいもを手に振り向き、居間を占領する兄貴に向かって声音をおとす。




「兄貴、大変だ」

「あァ?俺ぁ今忙しいの。お前なんかに構ってる余裕なんてねぇの」





出たよ、この定型文。俺は今忙しいんだから話し掛けんなアピール。

忙しいなんて言いながら、居間でごろんと横になってるだけじゃないか。それと、私はアンタに命令されて料理してやってんのに。



「誰のために料理してやってると思ってんの」

「おい妹。兄貴様を労われ、疲れてんだ」

「寝っ転がってるやつが言うな!」






そんなことを言っている場合じゃないんだって。

兄貴アンタ、自分で自分の首絞めてることに気付いてないんじゃないの。





「兄貴。肉がない」

「は?」

「肉。肉がないんだって」

「あ?おい……待てよ。俺はお前に肉じゃがを頼んだよな」

「頼んでない。命令だよ、あれは」





僅かながらに抗議の声を上げる私なんて勿論、スルー。

そんな感じで漸く事の大きさに気付いたらしい兄貴は、のっそりと起き上がると無駄に高い背丈を屈めて台所にやってくる。






< 61 / 74 >

この作品をシェア

pagetop