お前の死に場所は俺の後ろ
一瞬、周りの音が消えたような気がした。
視界に入るのは泉だけで、浮かべた笑顔は朗らかでいて酷く悲しげだった。

「新種の病気で、20年ぐらい前に初めてこの病気の患者が出た。全貌がほとんどわからないから治療法がわからない」
「………」
「私が発症したのは小学6年生の時。体調が悪いのが続くからって大きめの病院に行ったら不治の病って言われるんだよ?笑うしかないよね」

からからと笑う泉はさしていつもと変わった様子はないが、それが逆に歪に見えてしまう。

「……病気って、どんなだよ」
「どんな…って言われると、“わからない”としか言えないかな」

苦笑いをしながら、泉はぽつぽつと続けた。

「免疫力が通常より凄い落ちるから風邪とかインフルエンザにかかりやすい、とか?あと突然の発作があったり、記憶力が低下したり…私以外では、アレルギーが増えた人もいるらしいよ。個人差はあるらしいけどね」
「記憶力の低下、って」
「私馬鹿でしょ?あれ、勉強してないとかじゃなくて、単純に覚えられないんだよね。例えばほら、皆が3回言われたら覚えられるような事も、私は倍ぐらい言ってもらわなきゃ覚えられないの。だから他の人より頑張らなきゃいけないんだけど…私遊ぶの好きだし、授業も眠くなるしさぁ」

“馬鹿”の秘密が、糸を解くみたいに明らかになっていく。
ただのうるさい馬鹿だと思っていたのが抱えていた大きな悩み。その胸の中に抱き続けていた、重すぎる秘密。

「……誰が知ってんだ、それ」
「家族と担任と校長と、教頭と養護教諭の先生。それから」

泉は一旦言葉を区切ってから、病人とは思えない健康的な色の手で俺を指指した。

「古賀君、かな」

イタズラをした子供のように、にんまりと泉が口角を上げる。それに目を細めると同時に、頭の中に疑問が浮かぶ。

「何で、俺なんだ」

話した事もないような奴に、隠し続けてきた秘密をやすやすと話す事に、俺は疑問を抱いたのだ。
泉はクラスの中心グループのメンバーだ。俺なんかよりずっと仲の良いダチだっていくらでもいただろう。
俺の言いたい事を察したのか、泉は頬をかきながらへらへらと笑った。
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