その視界を彩るもの

/そして君は甘く笑う






イサゾーの様子が可笑しいことには、もう結構前から気付いていた。


「ちょっとちょっと、今日も居るんだってよ!"王子様"ッ」

「柳クンでしょ!?読モなんでしょ!?」

「もーマジカッコ良すぎるんですけど~!!」




一応言っておくけれど、あたしの通う高校は共学だ。

だから女子ばっかりがきゃあきゃあ叫んでいるからと言って、男子が居ない訳じゃない。単に目立っていないだけ。



思わず洩れ出す溜め息は、あたしの心情をそのままそっくり表していた。

面倒臭がりのイサゾーがあたしを迎えに来てくれている。

本来ならば嬉しい筈のその事実も、何故か素直に喜べない。て言うか、目立ちすぎじゃない?


悪目立ちしている訳では無いにしろ、面白くない。なんでかは知らないけれど。





アカネたちに適当に挨拶を済ませて、教室の扉をガラリと開け放つ。

すると、窓枠から身を乗り出す勢いで校門を凝視していたギャラリーが一様に振り返ってきた。


その瞳全てに好奇心がありありと浮上したこととか。

他の生徒からすれば「近付きづらい」と思われているグループに居るせいか、話し掛けてくる人間は限りなく少数であるにしろ。




「………」




イサゾー目的の女生徒たちが、ぞろぞろと背後を付いてくる感覚には堪え難いものがある。

毎日毎日、こんなことばっかされているあたしの身にもなれっての。


ペッタンコの鞄を背に抱えながら足を進めるけれど、このまま馬鹿正直にイサゾーの元へ行くことに躊躇いが生じた。

て言うか、ぶっちゃけもう我慢の限界だった。





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