その視界を彩るもの

/柳勇蔵とその家族






朱里《あかり》はストイックな人間として周りから一目置かれていた。

そんな彼女が恋に落ちた相手は同い年で取引き先の男、勇《ゆう》だった。

彼らの恋は順調にすすみ、愛が育まれ、ついに二人は結婚を決意した。


たった一枚の婚姻届に記入するのは彼らだけの名前。

朱里はいつしか厳格な人間ではなく、普通の恋する乙女になっていた。

彼女自身がそれを不安に感じて友人に相談するも、「恋すれば皆変わるんだよ」と絆され納得した。



結婚して二年間は二人だけの生活が続いた。

朱里も勇も幸せな時間を過ごした。そして何時しか、自分たちの子をと望むようになった。


その願いが叶うように彼女が授かった命が、他でもない後の勇蔵だった。




なんの不自由もない環境。幸せな家庭。

彼らは自分たちの未来も今と変わらず恵まれたものであることを信じて疑わなかった。

勇蔵が生まれて間もなくして、彼女は第二子を妊娠した。

二人目は女の子。相変わらず幸せな夫婦は生まれる前から相談を重ね、梢《こずえ》という名を子どもに授けた。





「おめでとうございます。健康な、女の子ですよ」






皮肉にも、彼らが胸を張って「幸せだった」と口にできる生活はここまでだった。




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